朝、業者からの電話を受けるたびに、胸がざわつく感覚、ありませんか。


「ボンドが今月から入りにくくなってまして…」「またちょっと値段が変わりまして…」
中東情勢の不安定化が続く中、建設現場ではシーリング材(コーキング)をはじめとした石油由来の資材が入荷困難になっています。加えて、鉄鋼・木材・電材などあらゆる材料の価格が右肩上がり。
そして、もっとも頭が痛いのは――「もう見積を出してしまった案件がある」という現実です。
私は建設会社で総務・経理・積算を7年担当してきました。番頭さんたちが会議室で「どう利益を取るか」と頭を抱える場面を、何度も見てきました。今回は、そのリアルな現場感覚と、実際に試みてきた対策を率直にお伝えします。
🔍 先に結論
- 見積後の資材値上がりで利益が消えるのは建設業特有の構造問題
- 利益が消える3つの原因を整理
- 実体験から学んだ4つの解決策と今日からできる具体アクションを紹介
- 「黙って損をする時代」は終わりにしよう、が記事の結論
なぜ、これほど追い詰められるのか?建設業特有の構造問題


建設業は「先に値段を決めて、後から原価が確定する」という、極めてリスクの高いビジネスモデルです。
製造業なら原材料を仕入れてから製品の値段を決められます。小売業なら在庫を持って価格を設定できます。でも建設業は違います。
工事の見積を出す → 受注する → 着工する → 材料を仕入れる
このフローの中で、「見積提出」と「材料仕入れ」の間に時間差が生まれます。通常でも1〜3ヶ月。規模が大きければ半年以上になることも。
この「タイムラグ」の間に資材価格が上がると、見積時の原価計算がそのまま「損失の設計図」になってしまうわけです。
さらに建設業には、下請け・孫請けという多層構造があります。元請けが価格を押さえると、そのしわ寄せは下請けへ。下請けは自社の利益を削って対応せざるを得ない。これが積み重なって、現場の番頭さんたちを苦しめています。
利益が消える3つの原因



① ボンド(シーリング材)をはじめとした石油系資材の供給不足
中東の地政学リスクが高まると、原油価格が変動し、石油由来の化学製品に影響が出ます。シーリング材(コーキング)、接着剤、防水材、塗料などがその代表です。
私が経験した現場でも、「ボンドが全然来ない」「メーカーが割り当て制になった」という事態が発生しました。入手困難になると、代替品や割高な品を使わざるを得ず、原価が跳ね上がります。
② 鉄鋼・木材・電気材料の価格上昇
ここ数年で鉄筋・形鋼は大幅に値上がりし、電線・ケーブル類も銅価格の高騰で価格改定が続いています。木材もウッドショック以降、高止まりが続く状況です。
問題は、これらが一時的なものではなく、構造的な値上がりになっていること。「そのうち下がるだろう」と待っていると、次の見積にも影響が出てきます。
③ 「値上がり分を誰が負担するか」の交渉力不足
見積を出した後に値上がりが発生した場合、本来は発注者(施主・元請け)と費用負担について協議すべきです。しかし「言い出しにくい」「関係が壊れるのが怖い」「そんな話、通らないと思っている」という心理的なハードルが高く、番頭さんが一人で抱え込んでしまうケースがほとんどです。
「言えない」ままでいると、会社の利益だけでなく、社員の給与にも影響が出てきます。
実体験から学んだ4つの解決策


解決策① 見積書に「資材変動条項」を入れる
これは今からでも次の案件から使える、もっとも重要な対策です。
見積書の備考欄や契約書に、以下のような文言を入れます。
「本見積書の有効期間は見積提出日より30日間とします。資材価格の変動が著しい場合は、受注後に再協議させていただくことがあります。」
私が勤める会社では、この文言を入れるようにしてから、資材値上がりの際に施主や元請けへ協議を申し入れやすくなりました。最初は「そんなこと書いていいの?」と社内でも戸惑いがありましたが、実際には発注者側も理解を示してくれるケースが多いです。
「見積書は交渉の出発点」。最初から逃げ場を作っておくことが大切です。
解決策② 原価管理を「リアルタイム」で行う
見積時の原価と実際の仕入れ原価を、工事ごとにリアルタイムで比較できる仕組みを作ります。
よくあるのが「工事が終わってから原価を確認する」パターン。これでは手遅れです。値上がりに気づくのが着工後だと、軌道修正が難しくなります。
- 仕入れ伝票が届いたら即座に見積時の単価と比較する
- 差額が出た工事には「赤フラグ」を立てて週次で確認する
- 月次の工事台帳に「見積原価」と「実績原価」の列を並べる
という運用を徹底することで、「じわじわ赤字になっていた」という事態を防げます。私自身、Excelで工事ごとの原価進捗表を作り、毎週月曜日に更新する習慣をつけたことで、早期に値上がり分を把握できるようになりました。
見て見ぬふりをしていた数字が、実は会社を蝕んでいます。
解決策③ 施主・元請けへの「値上がり協議」を正式に申し入れる
これが一番ハードルが高いですが、一番効果があります。
ポイントは「感情論ではなくデータで話す」こと。
- 見積時の資材単価と現在の仕入れ単価の差異を一覧化する
- 「○○材が△△%値上がりし、工事原価に××万円の影響が出ています」と数字で示す
- 公的なデータ(建設工事施工統計、建材価格指数など)を添付すると説得力が増す
施主や元請けも、資材高騰の話は業界全体で聞いています。「うちだけの話ではない」という姿勢で、誠実に協議を申し入れれば、一部でも認めてもらえるケースは少なくありません。
私が経験した案件では、ボンド類の値上がり分について施主と協議した結果、追加費用の一部(約60%)を認めていただけました。黙っていれば全額が会社の損失になっていたところです。
解決策④ 材料の「早期確保」と「代替品リスト」を整備する
次の案件から使える予防策として、以下の2つが有効です。
早期確保(プレオーダー):受注が見えてきた段階で、主要資材の仮確保を業者に依頼する。全量でなくても「この時期に必要になる見込みです」と伝えておくだけで、入荷の優先度を上げてもらいやすくなります。
代替品リスト:ボンドやシーリング材は製品によって機能が近いものが複数存在します。メーカーが違っても性能要件を満たすものを事前にリストアップしておくことで、入荷困難時にすぐ切り替えられます。私は業者に「同等品を教えてほしい」と依頼し、承認申請フォームと一緒に代替品リストを整備しました。
今日からできる具体アクション



1. 次の見積書から「資材変動条項」を入れる(今日)
備考欄に一文加えるだけ。テンプレートを作っておけば手間は5分です。
2. 現在進行中の工事の原価進捗を確認する(今週中)
見積時の主要材料単価と、直近の仕入れ単価を比較してみてください。まず「見える化」することが第一歩です。
3. 値上がりが大きい工事を1件ピックアップして協議の準備をする(今月中)
全案件一度にやる必要はありません。まず1件、データをまとめて施主か元請けに話してみてください。
4. 主要業者に「代替品」と「早期確保の相談」をする(今月中)
「いつもお世話になっているから言いにくい」という関係ほど、実は正直に相談しやすいものです。

まとめ:「黙って損をする時代」は終わりにしよう

中東情勢による資材不足と価格高騰は、一建設会社の努力だけで完全に解決できる問題ではありません。でも、「黙って損を受け入れる」のは違います。
見積に変動条項を入れる。原価をリアルタイムで追う。値上がりをデータで示して協議する。代替品と早期確保で調達リスクを下げる。
この4つを地道に実践することが、資材高騰時代に利益を守る唯一の道です。
建設業の原価管理・見積業務をもっと効率化したい方には、弥生会計の活用もおすすめです。見積・原価管理・財務会計を一元的に管理することで、値上がりへの対応がぐっと楽になります。


