「決算が迫っているのに、まだ終わっていない工事がある…これ、売上どうすればいいんだろう」
建設業の経理をしていると、毎年この悩みが来ます。
私自身も最初の頃、決算前に現場から「あの物件、まだ終わってないけど売上どうする?」と聞かれたとき、正直どう答えていいかわかりませんでした。完成していないのに売上を立てていいのか。かといって何もしないと、今期の売上が極端に少なくなってしまう。
決算をまたぐ工事の処理は、建設業経理の中でも「知っているか知らないか」で大きく差が出る部分です。
この記事では、完成基準・進行基準の違い、未成工事支出金の仕訳、出来高請求がある場合の処理、そして税務署が特に見るポイントまでを、建設業7年目の実務目線でわかりやすく解説します。


🔍 先に結論
- 決算またぎ工事の売上計上は2つの基準で整理する
- 処理に迷う原因は3つ、それぞれの解決方法を解説
- 内装工事会社向けに実務での使い分けも紹介
- 実際の仕訳例と今日からできる具体アクション付き
決算またぎ工事で本当に問題になること
決算またぎ工事の処理で、多くの経理担当者が最初にぶつかる壁があります。それは「完成していないから売上を立てない」という消極的な判断でも、「とりあえず半分だけ計上しておこう」という感覚的な処理でもなく、
「そもそも自社はどの基準で売上を計上するのか、決まっていない」
ということです。建設業には、売上計上のタイミングについて大きく2つの選択肢があります。
- 完成基準:工事が完成し、引き渡したタイミングで一括して売上計上する
- 進行基準:工事の進捗に応じて、段階的に売上を計上する
どちらを使うかは原則として会社が選択できます。ただし、「今期は完成基準、来期は進行基準」という自由な変更は税務上認められていません。一度決めたら毎年同じ基準で継続することが大原則です。
なぜ処理に迷ってしまうのか|3つの原因

原因①「そもそも基準の違いを知らなかった」
建設業の経理を始めたとき、「完成基準」「進行基準」という言葉を知らない方は多いと思います。
私自身もそうでした。入社したての頃は「工事が終わったら売上を立てる」という感覚だけで処理していて、決算またぎ案件が出てきたときは上司に丸投げしていました。
一般的な小売業や飲食業であれば、「商品を渡したとき」「サービスを提供したとき」が売上のタイミングで明確です。しかし建設業は工期が長く、決算をまたぐケースが日常的に発生するため、最初からルールを理解しておく必要があります。
「なんとなくやっていた」処理が、実は毎年ブレていた、というのはよくある話です。
原因②「継続適用の原則」を知らなかった
税務上、売上計上の基準は「継続して適用」することが求められています。つまり、今期に完成基準を使ったなら、翌期以降も原則として完成基準を使い続けなければなりません。問題になるのは、利益調整目的での基準変更です。
- 「今期は赤字になりそうだから進行基準にして売上を前倒しにしよう」
- 「今期は黒字すぎるから完成基準にして売上を翌期に回そう」
このような処理は税務署に非常に見られやすく、調査で否認される可能性があります。
毎年同じルールで継続することが、税務上の”信頼性”を積み上げます。
原因③「税務署が何を見ているか」を知らなかった
税務調査で決算またぎ工事が問題になるとき、税務署は必ず以下を確認します。
- 工事完了日はいつか
- 引渡日はいつか
- 請求日はいつか
- 検収日(施主による確認日)はいつか
- 入金条件の定め
- 出来高請求の有無
「完成していないから売上を立てていない」という処理であっても、引渡書類や検収書にサインがされていれば、税務署は「完成している」と判断することがあります。逆に進行基準で売上を計上した場合も、進捗を示す証拠(工程表・日報・写真など)が必要です。
書類が整っていない処理は、いくら正当でも税務調査で苦労します。
解決方法|2つの基準と実際の仕訳

① 完成基準の場合
完成基準は「工事が完成し、引渡しをしたタイミング」で売上を計上する方法です。
【例】9月着工・11月完成・10月決算の内装工事(請負金額500万円・原価350万円)
10月決算時点(工事未完成)
発生した工事原価(材料費・外注費など)を「未成工事支出金」として資産計上します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 未成工事支出金 | 2,000,000円 | 工事未払金 | 2,000,000円 |
売上はまだ計上しません。決算書には未成工事支出金として流動資産に表示されます。
11月(工事完成・引渡し時)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 完成工事未収入金 | 5,000,000円 | 完成工事高 | 5,000,000円 |
| 完成工事原価 | 3,500,000円 | 未成工事支出金 | 2,000,000円 |
| 工事未払金 | 1,500,000円 |
未成工事支出金を完成工事原価に振り替えます。シンプルで管理しやすいのが完成基準の最大のメリットです。
② 進行基準の場合
進行基準は「工事の進捗に応じて」売上を按分する方法です。
【例】請負金額1,000万円・原価見込700万円の工事で、決算時点で進捗率60%
- 当期売上:1,000万円 × 60% = 600万円
- 当期原価:700万円 × 60% = 420万円
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 完成工事未収入金 | 6,000,000円 | 完成工事高 | 6,000,000円 |
| 完成工事原価 | 4,200,000円 | 工事未払金 | 4,200,000円 |
進行基準を使う場合は、進捗率を客観的に示す証拠が必須です。工程表・出来高確認書・写真記録などを必ず保管しておきましょう。
③ 出来高請求がある場合
請負工事の中には「一定の工程が終わったら中間請求をする」出来高請求の形式をとるものがあります。この場合、請求した部分について売上計上するのが自然であり、税務署からも納得を得やすい処理です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 完成工事未収入金 | 5,000,000円 | 完成工事高 | 5,000,000円 |
出来高請求書という「事実」が存在するため、売上計上の根拠として非常に明確です。請求書・契約書・工程表をセットで保管しておくと万全です。
実務でどう使い分けるか|内装工事会社のおすすめ

私が経験してきた内装工事会社(工期1〜3か月・複数現場同時進行)には、以下の組み合わせが管理しやすいと感じています。
ベース:完成基準+未成工事支出金
- 毎期の処理がシンプルでミスが少ない
- 小・中規模案件に向いている
- 決算時に「未完成の工事にかかった費用」を未成工事支出金として資産計上するだけ
大型案件のみ:出来高請求ベースの進行基準
- 工期6か月以上、金額数千万円以上の案件
- 銀行融資審査のために期内に売上を適切に計上したい場合
- 中間請求書を根拠に計上するため、税務上も説明しやすい
一番大切なのは、この「自社のルール」を書面に残しておくことです。「当社は完成基準を基本とし、出来高請求がある案件はその請求額を売上計上する」と明文化しておくだけで、税務調査の対応が格段に楽になります。
今日からできる具体アクション

✅ 自社が現在どの基準を使っているか確認する
過去の決算書・法人税申告書の注記欄を確認しましょう。
✅ 決算またぎの工事リストを作成する
工事名・着工日・完成予定日・請負金額・進捗率・請求状況を一覧にします。
✅ 各工事の処理方針を事前に決める
「この工事は完成基準・この工事は出来高請求ベース」と、決算前に方針を固めておきましょう。
✅ 引渡書類・検収書・工程表を整える
税務署が見るのは書類です。証拠となる書類を決算前に揃えましょう。
✅ 翌期以降も同じルールを継続する
一度決めた基準は原則変更しません。「毎期ブレない」ことが最大の防衛策です。
- 完成基準:工事完成・引渡し時点で全額売上計上(中小建設業の基本)
- 進行基準:工事の進捗に応じて分割して売上計上(大型案件向け)
- 未成工事支出金:決算期末時点での仕掛工事の原価を資産計上する
- 利益調整だけを目的とした基準変更は税務否認リスクあり
- 毎年同じ基準を継続することが税務調査で最重要ポイント
- 内装工事会社の実務:完成基準+未成工事支出金ベース、大型案件のみ進行基準がおすすめ
まとめ
決算をまたぐ工事の売上計上には「完成基準」と「進行基準」の2つの方法があります。どちらが正解というわけではなく、自社の実態に合ったルールを決めて、毎年継続することが最も大切です。
利益調整目的だけの基準変更は税務否認リスクがあります。また、引渡日・請求日・検収日などの書類が整っていないと、正当な処理でも税務調査で苦労します。
私自身、最初は「なんとなく」処理していましたが、独学でルールを学んで社内基準を整備してからは、決算またぎの工事があっても慌てずに対応できるようになりました。まずは、今期の決算またぎ工事リストを作るところから始めてみてください。
「うちはずっとこのルールでやっています」と胸を張って言えること。それが建設業経理の一番の安心材料です。
建設業の経理業務をもっと効率化したい方には、クラウド会計ソフトの活用がおすすめです。未成工事支出金の管理や工事別の原価管理も、ソフトを使えば格段に楽になります。


