

今回の記事でわかること
- 日給/月給/日給月給の違い
- 建設業特有の手当の種類
- 残業代・社会保険の正しい計算
- よくあるミスと月次フロー
はじめに|建設業の給与計算は「普通の会社」と違う
建設業の給与計算は、他業種と比べて複雑になりがちです。日給・月給が混在し、現場ごとの手当や残業、夜勤、休日出勤などが加わることで、「毎月合っているのか分からない」と感じている事務担当者の方も多いのではないでしょうか。
実際、給与計算のミスは従業員との信頼関係や、会社の労務リスクに直結します。この記事では、建設業の事務として実務で押さえておきたい給与計算の基本と注意点を、できるだけ分かりやすく解説します。

建設業の給与形態|日給・月給・日給月給の違い

建設業では、同じ会社の中に複数の給与形態が混在していることがよくあります。それぞれの特徴と計算上の注意点を整理しましょう。
①月給制(固定給)
月給制は、欠勤や遅刻がなければ毎月一定の給与が支払われる形態です。営業・事務・現場監督などの管理職に多く見られます。欠勤控除の計算が必要になる場合は「月の所定労働日数」または「1ヶ月の暦日数」を基準にすることが一般的です。
欠勤控除の計算例:月給30万円 ÷ 月の所定労働日数22日 × 欠勤1日 = 約13,636円の控除
②日給制
日給制は、実際に働いた日数に応じて給与が変動する形態です。職人・一人親方に近い雇用形態の方に多く見られます。1日いくらと決められており、出勤日数を掛けるだけで基本給が算出できるため、計算自体はシンプルです。
日給制の計算例:日給15,000円 × 出勤20日 = 300,000円(基本給)
ただし、日給制の場合でも残業代・休日割増・深夜割増は労働基準法の適用を受けます。「日給に含まれているから残業代は不要」という考えは法律違反になる場合があるため注意が必要です。
③日給月給制
日給月給制は、月給を基準にしつつ、欠勤・遅刻・早退があった場合にその分を控除する形態です。建設業では最も多く採用されている形態のひとつで、「月給をもらっているけど欠勤すると引かれる」という仕組みです。
月給制との違いは微妙ですが、日給月給制では欠勤控除の計算が必ず発生する点が特徴です。就業規則でどちらの形態かを明確にしておくことが重要です。

建設業特有の手当・諸給与の種類と計算ポイント
建設業の給与明細には、一般企業にはない手当が含まれていることが多いです。それぞれの定義と計算への影響を理解しておく必要があります。
現場手当・作業手当
現場で働くことへの補償として支給される手当です。「現場に出た日だけ支給」「月額固定」など会社によって異なります。残業代の計算基礎(割増賃金の基礎)に含める必要があるかどうかは、その手当の性質によって判断が変わります。
原則として、実費弁償的な手当(通勤費・出張旅費など)を除き、すべての手当は割増賃金の基礎に含める必要があります。「現場手当は残業代の計算に入れなくていい」という誤解が多いため注意が必要です。
技能手当・資格手当
施工管理技士や電気工事士、玉掛け技能者など、特定の資格を持つ従業員に対して支給される手当です。固定額で月次支給されることが多く、給与の構成要素として就業規則に明記しておくことが大切です。
家族手当・住宅手当
家族手当は扶養家族の人数に応じて支給、住宅手当は自社規定に基づいて支給されます。これらは割増賃金の基礎に「含めなくてよい手当」として労基法施行規則で認められています(ただし要件あり)。就業規則への正確な記載が前提です。
通勤手当・車両手当
建設業では現場が変わるたびに通勤ルートや距離が変わることがあります。そのため毎月通勤手当の金額が変わるケースもあります。非課税限度額(最大月15万円)を超えた分は課税対象になるため、所得税の計算に影響します。

残業代・割増賃金の正しい計算方法
建設業では残業・休日出勤・深夜労働が発生しやすい環境です。割増賃金の計算を正確に行うことは、法令遵守の観点でも重要です。
割増率の基本
- 時間外労働(法定外残業):1.25倍以上
- 深夜労働(22時〜翌5時):1.25倍以上(時間外と重複する場合は1.5倍以上)
- 法定休日労働:1.35倍以上
- 月60時間超の時間外労働:1.5倍以上(中小企業も2023年4月から適用)
1時間あたりの賃金の計算
月給者の場合、1時間あたりの賃金は以下の式で求めます。
1時間あたりの賃金 = 月の基本給等(割増基礎額)÷ 月平均所定労働時間数
月平均所定労働時間数は「年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間 ÷ 12」で計算します。例えば年間240日・1日8時間の場合:240日 × 8時間 ÷ 12ヶ月 = 160時間が月平均所定労働時間になります。
日給者の場合は「日給 ÷ 1日の所定労働時間」で1時間あたりの賃金を算出します。
割増賃金の計算例
月給制:基本給280,000円、月平均所定労働時間160時間の場合
- 1時間あたり賃金:280,000円 ÷ 160時間 = 1,750円
- 残業10時間の割増賃金:1,750円 × 1.25 × 10時間 = 21,875円
- 深夜2時間の割増賃金(残業と重複):1,750円 × 1.5 × 2時間 = 5,250円


社会保険・雇用保険の控除計算
給与から控除する社会保険料は、標準報酬月額をベースに計算します。建設業の事務担当者として特に注意が必要なポイントを解説します。
健康保険・厚生年金の控除
健康保険と厚生年金は「標準報酬月額」に保険料率を掛けて算出し、会社と従業員で折半します。標準報酬月額は4〜6月の給与の平均(報酬月額)を基に決定され、9月から翌年8月まで適用されます(定時決定)。
建設業では手当や残業代が多いため、4〜6月に残業が集中すると標準報酬月額が上がり、その後の社会保険料が増えることがあります。残業の平準化を意識することも経費管理上のポイントです。
雇用保険の控除
雇用保険料は「給与総額(賃金)× 労働者負担率」で計算します。2024年度の一般の事業の労働者負担率は1,000分の6(0.6%)です。建設業は一般の事業と同じ料率が適用されます。
注意点として、雇用保険の保険料計算の基礎となる「賃金」には通勤手当・住宅手当なども含まれます(健康保険・厚生年金とは扱いが異なります)。
所得税の源泉徴収
所得税は国税庁が発行する「給与所得の源泉徴収税額表」を使って計算します。毎月の給与から社会保険料を控除した後の金額と、扶養親族の人数を「月額表」に当てはめて税額を求めます。
年末調整では1年間の源泉徴収額と確定税額の差額を精算します。建設業では現場によって通勤手当が変動したり、年途中での雇用・退職が多いため、年末調整の対象者と対象外(確定申告が必要な方)の整理も重要です。
建設業の給与計算でよくあるミスと対策
実際の現場で起きやすいミスを把握しておくことで、事前に防ぐことができます。以下のポイントは特に注意が必要です。
ミス①:残業時間の集計漏れ
現場の作業終了時間が不規則なため、タイムカードや出勤簿への記録が不正確になることがあります。「現場が終わったから退勤」ではなく、作業終了の確認・記録体制を整えることが重要です。勤怠システムを導入するか、少なくとも現場責任者が日報に記録する仕組みを作りましょう。
ミス②:日給者への残業代未払い
「日給制だから残業代は発生しない」という誤解が根強く残っています。日給制であっても、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた分は割増賃金の支払いが必要です。労働基準監督署の調査で是正指導を受けるケースも多いため、日給者の労働時間管理は特に注意が必要です。
ミス③:手当の割増基礎への算入漏れ
現場手当・技能手当・資格手当などを残業代の計算基礎に含め忘れるケースが多いです。割増賃金の基礎から除外できる手当は法律で限定されています(家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金)。それ以外の手当はすべて基礎に算入する必要があります。
ミス④:社会保険の加入漏れ
建設業では下請けの一人親方や短期雇用の作業員が多く、社会保険の加入判定が複雑になりがちです。週の所定労働時間が正社員の3/4以上(概ね30時間以上)であれば社会保険の加入義務があります。「短期だから入れなくていい」「日給だから関係ない」という判断は法律違反になる可能性があります。
ミス⑤:建設業退職金共済(建退共)の処理漏れ
建設業退職金共済制度(建退共)は、建設業界特有の退職金制度です。現場で働く作業員の退職金を事業主が積み立てる制度で、証紙の購入・貼付という独特の手続きがあります。給与計算とは直接連動しませんが、元請けから加入状況の確認を求められるケースもあるため、事務担当者は制度の概要を把握しておく必要があります。

給与計算の月次フロー|実務ステップを整理する
毎月の給与計算を効率よく・正確に行うために、フロー化しておくことが大切です。以下は標準的な月次給与計算のステップです。
- 勤怠データの収集・確認:タイムカード・出勤簿・日報などから各従業員の出勤日数・労働時間・残業時間・休日出勤日数を集計する
- 基本給・手当の計算:月給制は基本給固定、日給・日給月給制は出勤日数を掛けて算出。各種手当を加算する
- 割増賃金の計算:時間外・深夜・休日の割増賃金を正確に計算する
- 総支給額の確定:基本給+手当+割増賃金の合計を確定させる
- 控除額の計算:健康保険・厚生年金・雇用保険・所得税・住民税(前年度分)・その他を計算する
- 差引支給額の確定:総支給額から控除合計を引いて、実際の振込金額を確定する
- 給与明細の作成・配布:従業員ごとの明細を作成し、支払日前日までに配布(または電子配布)する
- 振込依頼・支払:銀行振込の場合は支払日の2〜3営業日前に銀行へ依頼する
- 仕訳・会計入力:給与の仕訳を会計ソフトに入力し、社会保険料・源泉所得税の納付管理も行う

給与計算ソフトの活用で業務を効率化する
手計算やExcelだけで給与計算を行っている場合、計算ミスや法改正への対応漏れが起きやすいです。給与計算ソフトを導入することで、計算の正確性・効率化が大幅に向上します。
給与計算ソフトを選ぶポイント
- 法改正への自動対応:社会保険料率・雇用保険料率・税率の自動更新機能があるか
- 日給・日給月給制への対応:給与形態が複数混在していても対応できるか
- 勤怠ソフトとの連携:タイムカードや勤怠管理システムのデータを取り込めるか
- 会計ソフトとの連携:給与データを会計ソフトに自動連携できるか
- 建退共・労災への対応:建設業特有の手続きに対応しているか
建設業でよく使われる給与計算ソフトとしては、弥生給与・freee人事労務・マネーフォワードクラウド給与などがあります。規模や予算に応じて選びましょう。
建設業の給与計算で押さえておきたい法律知識
給与計算に関わる主な法律は労働基準法・最低賃金法・社会保険関連法です。特に建設業の実務担当者が知っておくべきポイントをまとめます。
最低賃金への対応
日給制の場合、「日給 ÷ 1日の所定労働時間」で求めた時給が、都道府県の最低賃金を下回っていないか毎年10月の改定時に確認が必要です。特に地方の最低賃金は近年大幅に引き上げられているため、以前の設定のままになっていないか確認してください。
36協定(時間外・休日労働に関する協定)
法定労働時間を超えて残業させるためには、36協定の締結と労働基準監督署への届け出が必要です。建設業は2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されました(罰則付き)。上限は原則月45時間・年360時間で、特別条項を結んでも年720時間が上限となります。
同一労働同一賃金
パートタイム・有期雇用労働者と正社員の間で不合理な待遇差を設けることは禁止されています。建設業でも非正規従業員(アルバイト・契約社員)を雇う場合は、手当の支給基準・福利厚生の均衡・均等待遇に注意が必要です。
まとめ|建設業の給与計算は「基本×現場対応」で正確に
建設業の給与計算が複雑に感じる主な理由は、日給・月給・日給月給という複数の給与形態の混在、多様な手当の種類と割増賃金への影響、そして不規則な労働時間の管理にあります。
毎月のミスを防ぐためには、以下の3点を徹底することが大切です。
- 勤怠データの正確な収集:タイムカード・日報・現場報告の仕組みを整備する
- 割増賃金の計算基礎を正しく設定:どの手当を基礎に含めるかを就業規則で明確化する
- 給与計算ソフトで法改正に自動対応:手計算・Excel管理から脱却し、ソフトに任せる部分を増やす
給与計算は「毎月必ず発生する業務」だからこそ、一度正しいフローを整えてしまえば安定して運用できます。この記事が建設業の事務担当者の皆さんの実務に少しでも役立てば幸いです。

この記事のまとめ
- 日給・月給・日給月給の違いを理解
- 手当は建設業特有の体系を把握
- 残業代の割増率は法律通りに
- 月次フローでミスを防ぐ
以上、じむねこでした!

